『 春 や 春 ― (1) ― 』
「 はい お疲れさま〜〜〜 」
マダムの声で 全員がレヴェランス、そして ピアニストさんも含め皆への
感謝で拍手をし ― 朝のクラスは終わった。
「 ・・・ ( はあ〜〜〜 ) 」
最後列で フランソワーズは大息をはきタオルに顔を埋めた。
・・・ なんとか ・・・ 転ばなかった ・・・ !
「 あ〜〜あ つっかれたァ〜〜 」
バーで隣の彼女、 仲良しのみちよが声を上げた。
「 ふぇ〜〜〜 あれ フランソワーズ どしたの? 」
「 ・・・ あ ううん ちょっと 疲れた な って 」
「 あは そ〜だよねえ マダムの朝のクラスはさあ テンポ早いし
やること多いし〜〜 誰でも最初はびっくりだよ 」
「 ・・・ もう最初から最後まで 回って 回って 回りまくった・・・
って気分 〜〜 」
「 そだねえ 先輩方は涼しい顔で三回四回 ご〜ご〜回るけど 」
「 皆さん すごいわ ・・・ それに アレグロ・・・・
わたし 転ばなかったのが奇跡よ ・・・ 」
「 あ〜 アレね〜〜 うん えへへ ・・・ パターンがいくつかあるからさ
それが解ると 脚、縺れなくなるよ 」
「 ・・・ そう なの・・? 」
「 ウン。 アタシもさ ここに来た最初のころ はっで〜〜に転んでた 」
「 え ・・・ 」
「 皆経験 あり よぉ 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
ふ ・・・ う ・・・
フランソワーズはもう一度 タオルに顔を埋めて汗と一緒に涙を拭った。
生き延びるための闘いの日々から なんとか脱出し
様々な事情により この島国に住むことになった。
彼女と仲間達は とりあえず、自由で平穏な日々を手にすることができた。
やっと手にした < ごく普通の日々 > ・・・
フランソワーズは 迷わず再び踊りの世界の門を叩いた。
いろいろあったけれど 今は都心近くのバレエ団に研究生として通っている。
・・・ また踊れるって 最高〜〜 なんだけど ・・
ああ ・・・ なんだってこんなに身体が動かないの〜
思い通りにならない自分自身の身体に 歯ぎしりをする日々なのだ。
「 ね〜〜 今日 急ぐ? 帰りにお茶 してかな〜い? 」
にこにこ誘ってくれる友達がいることがとても嬉しかった。
「 あ・・・ ありがとう〜〜
ごめんなさい、 なんかすごく疲れちゃって ・・・また誘って? 」
「 あ〜〜 そうだね〜〜 ね? いろいろ・・・ あんまり
気にしないほうがいいよ? 」
「 え ・・・ 」
「 アタシもだけどぉ 最初は皆 ボロボロ だからさ 」
「 そう なの ・・・ 」
「 そ。 そのうち慣れるって 」
「 ・・・ そうなってほしいわ 」
「 ウン。 元気になったらお茶しよ? この近くにさ〜
雰囲気いいカフェ、あるのよぉ 」
「 ありがとう〜 元気になる! 一緒にカフェ したいの〜 」
「 楽しみにしてるね〜〜 」
みちよは ひらひら手を振って帰っていった。
ふう 〜〜〜 ・・・ 頑張らなくちゃ ・・・
のろのろ着替え 重い足取りでバレエ団の玄関を通っていると
「 あ フランソワーズ。 ちょっと〜 」
事務所のカウンターから 主宰者のマダムが顔をだした。
「 ? はい・・・? 」
「 次のスタジオ・パフォーマンス、 若手全員出演だからね〜
あ フランソワーズ あなたもよ
」
「 は はい ・・・ ! 」
「 あとでね 事務所で 音とビデオ、もらって。
あなた 後列の左側 ね。 スケジュール は 後で掲示板。 おっけ? 」
「 は はい ・・・ あのう ・・・ 」
「 なあに 」
「 ・・・ あのう ・・・ 演目はなんですか 」
「 あら やだ、言ってなかったわねえ〜〜 」
マダムは ケラケラ笑っている。
「 ・・・・ 」
「 わたしの作品よ。 『 Wild Fire 』 というの。
ま よ〜〜く ビデオ、 見てね〜〜
」
「 は はい ・・・ ! 」
目をまん丸にして突っ立っている彼女を残し マダムは上機嫌で
事務所に引っ込んでしまった。
・・・ わいるど ふぁいあ〜? ・・・
「 あ フランソワーズさあん はい これ。 」
「 は はい 」
入れ替わりに出てきた事務担当の女性に渡された < 荷物 > を抱え
フランソワーズは しばらくぼけ・・・っと その場に立っていた。
「 ・・・ は あ ・・・・ 」
腕の中には角が当たる荷物。 軽いはずなのに なぜかずっしり・・・感じた。
「 ! はやく帰って 見なくちゃ! 」
金髪乙女は 大荷物を抱えなおすと ぱたぱた・・・ 駆けだした。
「 あらま まあ 張り切ってくださいな 」
そんな後ろ姿を 窓から見送り マダムはまだクスクス・・・ 笑っていた。
「 ・・・・・ 」
帰宅して 荷物もそのままにリビングのTVに突進した。
「 フランソワーズかい? 」
「 はい〜〜〜 只今かえりました〜〜〜 」
奥からの博士の声に 返事をし さっそくDVDを再生する。
初演の日付と 出演メンバーが記されていた。
メンバーの中に 知った名はない。
「 ・・・ ふうん? ずいぶん古い作品なのねえ ・・・ へえ 」
〜〜〜〜♪♪ ♪ ♪
歯切れのよいテンポの速い音楽が始まった。
「 ? あ れ ・・・ これ ・・・・ う わあ 」
最初から最後まで フランソワーズは画面にくぎ付け ・・・
瞬きも そして 動くこともできなかった。
た〜〜んた〜〜んたたた〜〜♪ じゃんっ♪
最後の音で 六人のダンサーたちが炎のように集まって ― 画面は終わった。
「 ・・・ な なに これ。 これを 踊れっていうの?? 」
暗くなった画面を呆然と眺めつつ ようやっと独り言が絞り出てきた。
その踊りはジャズ風の音で ほとんどがアレグロだった。
ダンサー達は簡素な衣装、信じられない足捌きで整然と踊る・・・
しかも 彼女たちは ポアント ( トウ・シューズのこと ) なのだ!
よ〜く見れば パはすべてクラシックのテクニックで踊られている。
「 うっそ ・・・ これ コンテ じゃないの???
( コンテ : コンテンポラリー・ダンス 現代舞踊 )
あ この曲・・・ そうよ 『 レ・シル 』 だわよねえ?? 」
震える指先でリモコンを弄り、もう一度 再生する。
息を呑み 見終わり ― また 再生する。 目を皿にようにして見て
― また 再生する。
彼女は 延々その作業を繰り返していた。
「 フランソワーズ? なにか あったのかね ? 」
ふわり。 温かい手の感触を肩に感じた。
「 ・・・・? ・・・ あ 博士 」
ぎくしゃくと振り返れば ギルモア博士立っていた。
散歩帰りとおぼしき服装で 少し顔が赤い。
「 お ・・・ お帰りな さい 」
「 ああ ただいま。 さっきお前が帰ってきてから
ちょいと国道先の商店街まで行ってきたのじゃが ― なにかあったのかい 」
「 え・・? 」
「 ずっとここにおったのかな? 」
博士は TVのモニターを指した。
「 ・・・ あ は はい ・・・ 次の舞台で 踊る作品・・・
DVD 借りてきて ・・・ 」
「 おお そうか。 なにを踊るのかね? 」
「 えっと・・・・ マダムの創作で 『 わいるど・ふぁいあ 』 」
「 ほう〜〜〜 あの御仁はすごいのう
いつも精力的で 常に変化を求めておられる。 」
「 そ そうです か 」
「 ああ。 本当のアーテイストとは ああでなくては なあ
いつも 同じところに留まっていては なにも創りだせんよ 」
「 あ そうですねえ 」
「 そんな御仁の作品だからなあ〜 クラシックなのかい 」
「 ・・・ いえ ・・・はい 」
「 ? うん? 」
「 あのう〜〜 ともかく滅茶苦茶速くて ・・・
一応 ポアントで踊るんですけど 」
「 ほう? なるほどなあ 」
「 ? 」
「 うんうん 頑張ってくれ フランソワーズ〜〜
楽しみにしているよ 」
「 は はい・・・ あ 晩ご飯 ! 」
「 ああ ちょいとなあ 商店街で美味しそうな惣菜があったので
買ってきたよ どうだい ? 」
博士は 手にしていたレジ袋を差し出した。
「 ? わあ お野菜と・・・ これはチキンですか? 」
「 そうらしい。 なにしろいい香が漂っておってなあ
ついつい誘われてしまったよ。 」
「 きゃ〜〜 楽しみ〜〜♪ それじゃ さっぱり系のスープ、
作りましょうか 」
「 お いいねえ〜 あ・・・ 腹ぺこ青年のために
たっぷりメシを炊いておいてくれるかな 」
「 うふふ〜〜 はい。 じゃ ジョーの好きな 混ぜご飯 に
しよっかな〜〜 」
「 任せるよ。 」
「 はい あら ジョーは? 」
「 まだ戻らんようだな 」
ジョーは 今 コズミ博士の研究室に通い 勉学に励んでいる。
資格を取りたい ― ジョーの今の最大の目標である。
しか〜し いかにサイボーグとはいえ 努力ナシではなにも得ることはできない。
彼は彼なりに 毎日必死なのだ。
「 そうですか。 わたし 自分のコトに夢中で ・・・
周り 全然見てなくて 」
「 いいんじゃよ それで。
おっつけアイツも戻るさ 腹ぺこ でなあ
」
「 ふふふ ・・・ コズミ先生のとこでしごかれてますわね 」
「 いいことさ ― フランソワーズもしっかりな 」
「 ― はい ! 」
フランソワ―ズは DVDを片づけ キッチンに向かった。
ま とりあえず 美味しいご飯 たべよっと☆
気分を変えるには やはり < 食べる > ことが一番のようだ。
夕方には この屋敷でくらす三人は ちゃんと顔をそろえるのが
< 約束 > だ。
三人で晩ご飯のテーブルを囲むのが 習慣になってきている。
「 ごちそうさまでした 」
皆で にこにこ・・・ 箸を置いた。
「 あ〜〜〜〜 美味しいかったあ〜〜〜
このチキンの煮物も スープも 混ぜご飯も〜〜〜 」
ジョーが お腹をなぜなぜしつつ 満足の吐息、だ。
「 ジョーってば 大丈夫? 三杯 お代わりしたでしょ 」
「 だってさ ・・・ 美味しくて〜〜 」
「 うむ うむ ・・・ やはり土地のモノは上手いなあ 」
「 そうですね、お野菜 ホントにオイシイ〜〜 」
「 ね ぼく この混ぜご飯 めっちゃ好きだ〜〜 ねえ またつくって? 」
「 ええ。 あ 明日のお弁当に入れましょうか 」
「 わ〜〜〜〜 おねがい♪ 」
「 ワシも頼めるかな 」
「 はい わたしも自分のお弁当にします 」
「 ああ いいなあ〜〜〜 こういうの すごく憧れたたんだ 」
「 こういうの? 」
「 ウン。 晩ご飯のオカズとかをさ 弁当にも入れてもらう とか 」
「 へえ ・・・ 今のヒトはコンビニ弁当がいいんじゃないの
」
「 それもオイシイよ でもさ〜〜 これ ウチの味 じゃん 」
「 そうね。 ちょっと調味料を足したから 」
「 あ〜〜 最高♪ 」
「 ぎゅ〜〜〜っといっぱい詰めておくわね。
明日もコズミ先生のところ? 」
「 ウン ・・・ もうさ〜〜 大変だよ ・・・・ 」
「 頑張ってね ジョー 」
「 ありがと。 あ きみも レッスン どう? 」
「 ・・・ もうね 大変なの〜〜〜 」
「 二人とも しっかりな。 ワシも負けんからな 」
「 わお〜〜 」
「 さあ 今夜は皆 しっかり休もうな。 片づけはワシが 」
「 あ 博士〜〜〜 ぼくがやりますから。
えへん。 以前皿洗いのバイト、してたんですから。 」
「 あらあ 一緒にやりましょ。 博士 それじゃ・・・
戸締りの確認をお願いしますね 」
「 おう 引き受けた。 それじゃ 皆 おやすみ 」
「「 お休みなさい 」」
その夜 ギルモア邸は早々に灯が消えた。
・・・ はずだったのだが。
コトン。 そっとリビングのドアが開いた。
「 ・・・ どれ お茶を一杯もらおうかな ・・・ うん? 」
博士が 足音を忍ばせ入ってきた。
「 点けっぱなし か ・・・ 」
灯を落としたはずの部屋が ほの明るい。
どうやら TVスクリーンのスイッチがオフになっていない状態とみえる。
やれやれ・・・ と博士はリビングの隅に回った が。
TVの前には ― 金髪娘がリモコンを握ったままぐっすり寝入っていた。
「 ・・・ おやおや ウチのお嬢さんは ― あの後また見ていたのか
うん? ああ これがそのあの女史の作品かい 」
博士は 止まったままの画面を何気なく再生してみた。
〜〜〜 ♪♪ 歯切れのよい音が ごく小さく聞こえてきた。
中央では 六人のダンサー達が踊りはじめる。
「 ! これ は ・・・ ! すごい ・・・ 」
チラっと見るだけ のつもりだったが そのまま最後まで
画面にくぎ付けとなり 観賞してしまった。
「 う〜〜む ・・・ さすがじゃなあ 〜〜 」
博士は フランソワーズの保護者として 何回かバレエ団の主宰者であるマダムと
会い 話をしている。
「 ― ふふん ! ワシだとてまだまだ負けられん!
同年代のあの御仁にひけを取るわけには ゆかんな。
フランソワーズ ・・・ これを踊るのか ・・・ がんばれよ 」
すうすう寝入っている娘に 博士はそっと・・・ ブランケットを
掛けてやるのだった。
「 ・・・ ん? 」
振り返れば ソファでは茶髪アタマがテキストを抱えたまま
こちらも ぐっすり寝入っていた。
「 ははあ ・・・ ボデイ・ガードのつもり、 かな?
いやいや < ぼくも付き合うよ > な気分じゃったのか・・・
おい ・・・ お前も 負けるな 」
博士は 低く笑いつつもう一枚 ブランケットを取りにゆくのだった。
ソファで寝て居たジョー ・・・ ジョーはジョーで 苦戦している。
彼は今 コズミ博士の研究室に < 助手 > いや 彼自身いわく
「 とんでもないよ〜〜 ぼく なにもできないもん。
お手伝いさん だな 〜 買い出しとか掃除、洗濯なんか担当してます 」
だそうである。
空き時間は コズミ老の指導で勉学に励む。
「 ・・・ う〜〜〜 ちゃんと勉強、しておくんだった〜〜〜 」
もともと勉強はキライではなかった。
しかし 進学は考えなれなかったし、高校に進めただけでも
ありがたい、と思っていた。
高校生になれば 施設の年下の仲間たちの面倒をみたり、神父様を
助けて雑用やら施設の掃除もしなければならず ・・・
勉学に割ける時間は ほとんどなかった。
「 ただいま戻りましたあ〜〜 コズミ先生 お好きな大根、
地元産のがありましたよ〜 」
両手に大荷物 で ジョーは玄関で声をあげる。
「 おお〜〜 ご苦労さん。 さあさ 一服しなさい。
君の好きなココアを淹れるよ 」
コズミ博士が にこにこ迎えてくれた。 如雨露と一緒だ。
「 わあ〜 ありがとうございます。
あ 植木に水やり ですか。 ぼくがやります! 」
「 あ〜 あのなあ 盆栽の水遣りなのでなあ 〜 」
「 あ そうですね〜〜 素人のぼくじゃな〜
あ それじゃ ぼく バケツに水 汲んで運びますから 」
「 おお おお ありがとう。 まずは ひと休みしなさい 」
「 はい! えっと生ものや冷凍モノ 冷蔵庫にいれてきます 」
「 ありがとうよ ・・・ ほんに気持ちのいい若者じゃのう
・・・ ふふふ あの金髪のお嬢さんの気持ちが通じるといいなあ
おい 青年よ? お前だって想っておるじゃないか 」
― コズミ博士は 誰よりも早く フランソワーズの淡い思慕 と
ジョーの秘めたる恋心 を見抜いていたのだ〜〜〜 ( はあと )
部屋の中では 加湿器の音だけが聞こえる。
「 ・・・・ ? 」
「 うん・・・? なにを呻吟しておるのかね 」
「 ・・・ し しんぎん? 」
「 あ〜 のびたり縮んだりして悩んでおるのか と聞いておるのじゃよ 」
「 あ・・・ あのう〜 この問題が 」
「 うん? 」
コズミ老は 差し出された高校数学T のテキストを覗きこんだ。
「 あ〜 ・・・ 君のその頭脳ならたとえば高等数学じゃとて
なんでもないだろう? 」
博士は少し遠慮気味に尋ねた。
「 え? ・・・ あ〜 あの ・・・
ぼく。 島村ジョー として 高卒資格 取って 大検 とりたいんです。
その・・・元々のアタマ使って ・・・ 」
「 すまん。 こころないことを言ってしまったな 申し訳ない。 」
ぺこり、博士はアタマを下げた。
「 え〜〜 そんな〜〜 やめてください〜〜 コズミ先生。
これ ぼくの勝手な拘り なんですから 〜〜 」
「 わかった。 しっかり学びたまえ。 」
「 ありがとうございます〜〜 で この問題ですけどぉ
」
「 どれ? ふむ これはなあ 」
ジョーの鉛筆を借りると いくつかの公式を書きだした。
「 あ それは 覚えてます 」
「 うむ ではこれらを 使って解いてごらん?
ああ そのままではダメだなあ どう加工したらいいかな 」
「 ・・・ え〜〜〜っとぉ ・・・ 」
― こんな具合に ジョーは今 がっつり勉学に取り組んでいるのだ。
「 きみの希望は 将来の希望はどの分野なのかな。 」
数学が一段落し う〜〜〜〜・・・っとノートを眺めている 島村クン に
コズミ先生は何気なく聞いた。
「 あ ・・・ ええと ・・・ それはギルモア博士の助手・・・
いえ お手伝いができたら ・・・ 」
「 ふふふ〜〜 それはかなりハードルが高いぞ? 焦ることは ない 」
「 はい。 ・・・ でも ホントは 」
「 ホントは? ホンネを教えておくれ 」
「 ハイ。 ぼく ・・・ 大学卒業して しっかり働きたいんです。 」
「 ほう どんな仕事がしたいのかな 」
「 ・・・ 実は ・・・ 写真とか 雑誌編集とか 興味があって 」
「 ほう〜〜〜 幅広い知識がいるなあ アンテナを広く張る必要があるよ 」
「 アンテナ ですか 」
「 左様。 多くの情報をキャッチして どの方向をとるか
自分自身の判断基準もきっちりともっておかないとな 」
「 ― はい! 」
「 ふふふ〜〜 頼もしいぞ。 ・・・ カノジョも注目してくれるさ 」
「 え そ そうですか〜〜 って ・・?!
え え〜〜〜 な なんで知ってるんですか ?? 」
「 ふっふっふ〜〜〜 まあ 楽しみにしておるよ 」
ドギマギしているジョーを コズミ博士はクスクス〜〜 笑いつつ
眺めていた。
! が がんばる 〜〜〜 !
同級生たちは もうとっくにこの道を通ったんだから ・・・・
・・・ ぼくは フランに相応しいオトコになるんだ〜〜〜
― その日のフランソワーズ製のお弁当 を
ジョーは とてもとても美味しく頂いたのだった。
さて 翌朝 ― 岬のギルモア邸では ・・・
「 あ〜〜〜〜 寝ちゃったんだあ〜〜〜 わたしッてばあ〜〜 」
朝の光で目覚めれば ぜかリビングのソファでしっかり気持ちよく〜〜眠っていた。
「 やだ〜〜 まだ全部覚えてないのに ・・・
ああ お弁当 と 朝ご飯〜〜 つくらなきゃ ・・・・ 」
がばっと飛び起きると フランソワーズは顔も洗わずにキッチンに
飛び込んだ。
「 朝ご飯〜〜〜 あら? 」
「 あ おはよう〜〜 フラン 」
レンジの前には ジョーがエプロンをして立っていた。
「 えっと カフェ・オ・レ だよね? 」
「 え ・・・ ええ 」
「 今朝は ぼくのたまごやき でがまんしてくれる? 」
「 う わ・・・ ありがとう〜〜 嬉しいわ ジョー 」
「 えへへ・・・ あ それじゃお皿 並べてよ
」
「 はい。 うわあ いい香りねえ 」
「 えへ なんかぼく的には けっこううまく焼けたと思うけど
・・・ じゃ〜〜ん 」
コトリ。 たまごやき の乗ったお皿がテーブルに置かれた。
「 うわ〜〜〜 美味しそう〜〜〜 ねえ 一切れ、お味見いい? 」
「 あ いいよ。 えへ・・・ ちょっと自慢の味かな〜〜 」
「 いっただっきまあす〜〜 ・・・ あら ほんのり甘いわ
〜〜〜 おいしい〜〜〜 」
「 わ 気に入った? 」
「 ええ とっても〜〜 日本のオムレツね 」
「 うん。 え〜〜 これが日本のたまごやきです 」
「 いいわあ ね? お弁当にも 美味しいわよね 」
「 うん。 冷えてもオイシイんだ
」
「 すご〜〜い ・・・ ジョー ったらお料理、上手じゃない?
あ これはジョーのお母様の味? 」
「 あっは ・・・ ぼくが満足にできるのは この卵焼き だけなんだ
施設にいたころ、寮母のおばちゃんに特訓された 」
「 ・・・ あ ご ごめんなさい ・・・ 無神経なこと、言って 」
「 え 別にいいよぉ〜 隠す必要 ないもん。
気に入ってくれた? たまごやき 」
「 ええ ええ ものすごく♪ 」
「 よ〜し えへへ 実はね 今日の弁当 ぼくが作って。
あの 昨日の混ぜご飯のお握りなんだけど ・・・いい? 」
「 え〜〜〜 お弁当まで?? おにぎり すきよ♪
」
「 よかった・・・・で オカズは 卵焼 に タコさんウィンナー
それから ほうれん草の胡麻あえ に ポテトサラダ さ 」
「 ・・・ すっご・・・ ジョー〜〜 」
「 おはよう 諸君〜 」
博士が タオルを片手に現れた。
「 あ おはようございます〜 散歩はどうしたか 」
「 おう 早朝の空気はいいぞ〜〜
ふふふ ・・・ 二人ともソファの寝心地はどうじゃったかい 」
「 え ・・・ あ〜〜 あのブランケット・・・ 博士が? 」
「 風邪 ひかんようにな〜 ジョーもフランソワーズも 」
「 ・・・ あの・・・寝る前にもう一回 DVD見ようって思って
― そのまま寝ちゃったみたい ・・・ 」
「 ぼく さ。 ノート忘れて降りてきて。
きみがDVD見てたから その・・・ソファで待ってたら ・・・
寝ちゃったんだ ・・・ 」
「 さあさあ 朝ご飯にしようじゃないか。 」
「 あ! 顔 洗ってきます〜〜 」
フランソワーズは ぱたぱたとバス・ルームに飛んでいった。
やらなきゃ・・・! しっかり踊れるように!
< 家族 > も 応援してくれるんだもの・・・
朝陽の差し込む家で フランソワーズはきゅ・・・っと
唇を結ぶのだった。
そして ―
必死で覚えた。 八小節ごとにDVDを止め 止め で見て
ステップを書きとった。
それをアタマに叩きこんだ。
「 とにかく ・・・ 覚えたわ! じゃ 音だして 」
次には音と一緒に動いてみた。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 こんなに速く 足、動かない〜〜〜 」
できない個所ばかりだったが ― とにかく動きは丸暗記をした。
「 足手纏いになんか ならないわっ わたし・・・ ! 」
フランソワーズは かなり悲壮な気分でリハ―サル初日を迎えた。
「 ・・・ お おはようございます 」
リハーサルのスタジオには 一番で入った。
音源用の機器を用意し、マダム用の椅子ももってきた。
「 ・・・ これで いいかな ・・・ 」
フランソワーズは すこし固い表情で辺りを見回した。
「 おはよ〜〜 ございます〜 あら フランソワ―ズちゃん 」
「 あ リエさん よろしくお願いします 」
「 こちらこそ〜 あ 用意してくれたの、ありがと〜 」
「 おはよ〜です〜 お〜 フランソワーズちゃん よろしく 〜 」
「 マリさん こちらこそお願いします 」
次々に一緒に踊るメンバー達が集まってきた。
フランンソワーズ以外は このバレエ団ではすでにソリストを務める先輩たち
ばかりなのだ。
・・・ う ・・・ なんで わたし が??
Last updated : 04,02,2019.
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************** 途中ですが
え〜〜 バレエ物です☆
ジョーもフランソワーズも 009 003 じゃなくて
生身のニンゲンとして頑張るのです!